土地問題過去記事その10 市場性はあるのか

引き続き、土地鑑定について。
前回は「正常価格」について触れた。

「市場性を有する」土地が一般的な市場で売られたとしたら、一体いくらで売買が成立するだろうか?

というのを推定したものが正常価格になるわけだが、件の土地は農地
これだけで、少なくとも宅地としての市場性はない、と言って良いだろう。

なぜか。
私が例の土地が欲しい、と思っても買えない。
農家ではないからだ。
農地は農家でなければ買えない
と法で決まっている。

確かに、例の土地は市街化区域「内」だから、農地から宅地に用途変更することは容易だが、宅地として一般の人に売るのならば、まず農地を宅地に転用する手続きをした上で売り出さなければならない。

で、今回は転用しないまま売られた。
転用手続きは行政なら不要であり、届出だけで済むからだ。
土地開発公社は農地を取得してはいけないことになっているが、市は「市街化農地の場合は取得可」としている。
ちなみに、以前確認した際には、公社所有となった後も地目は農地のままだった。

市長は、急いで土地を取得した理由として
「開発されたら手遅れ」
と繰り返してる。だが、
誰があの土地を買い、そして開発するのだろう?

繰り返すが、農地は農家でなければ買えない。
だから、前の所有者も農家であり、農業規模拡大という理由で取得している。
そして、市が取得するまでの5年間、耕作していたということだ。
取得金額は3000万円だが、500坪程度の土地を「農業規模拡大」という名目で3000万円も出して取得して採算が合うのか疑問だが、いずれにせよ農地は農家が耕作する目的で取得するものだ。

開発業者や一般の人が買える、市場性がある土地だと言えるだろうか?
直ちに「宅地開発されてしまう」のだろうか?

そして、当該土地の価値について最大の争点は
「無道路地」
ということだ。6尺(約1.8m)の赤道があるので
市は無道路地ではないと強調している。
しかし、建物を建てるには道路が必要となるのだが、そのための道路、つまり
建築基準法上の道路はない。
だから、無道路地と見なして差し支えないわけで、この点からも直ちに開発される可能性はない、と言い切ってよい。

まとめると、当該土地は
1.農地
2.無道路地
なので市場性に乏しく、つまりは
3.直ちに開発される可能性が無い土地
ということになり、よって
緊急取得する理由はない
うえ、
宅地としての正常価格での評価はいかがなものか?
という結論になる。

市長は、
「駅から5分※の便利な場所で、あれだけの緑が残っているのは貴重」
「いつ開発されてしまうかわからない」
「貴重な緑を残さなければならない」
と強調していた。

しかしそれは、駅から近かろうがなんだろうが
開発しにくい土地だから残っているに過ぎない
ということではないか?
自身の発言が矛盾していることに気がつかないようだ。

※細かい事で恐縮だが、正式には「駅500m」
不動産広告では平坦路で80mを1分として計算する。
当該場所は坂を下って上る格好になる。
前から気になっていたが、市は当該土地を少しでも好条件に見せたいのだろう

更に言えば、※なぜあの場所が開発されてしまったらいけないのか?
土地所有者が、最も有効な土地の使い途は「宅地」だ、という判断をして、開発してはいけないのだろうか?
余計なお世話だと思うし、そんなに貴重だと言うのならば
「特別緑地保全地区」
など、法の網をかけて保全していくのが筋だ。現に、市内にはそうした場所があり、保全目的で市が段階的に取得しているのだ。

※市長の思い込みだけでも良いのかもしれないが、例えば、地元から「周辺一帯を保全して欲しい」という声があったのだろうか?

ちなみに市は、前市長の時に鵠沼で宅地開発に晒されていた土地を「残すべき緑地」として取得している。
この時は、今回と違い実際に開発業者が地元説明会を開くなど、緑地をつぶして
宅地開発することが具体化
していた。当然ながら道路にも面しており、市場性が高い、鑑定用語でいえば「熟成した」鵠沼の住宅地内の土地だ。

そして、これも今回と全く違うが、
地元自治会を中心に住民運動が起こり、自分たちで緑地管理はするから何とか市が取得できないか?
という声に応える形で市が取得、緑地として保存していくことが決定した。
松が岡5丁目、面積は約1400㎡ほどで取得金額は坪単価で約60万、2億4000万円ほどだったと記憶している。
繰り返すが、
この土地取得は「地元の運動」と「地元住民による管理」が前提
であり、善行のように
陳情書一枚で取得決定
した訳ではないのだ。

さらには、松が岡緑地は市の
「ビオトープ計画」
にも連動するものだ。
川名緑地のような大規模な緑地でなくとも、住宅地内の緑地も生物多様性的な意味合いからも貴重であり保全すべき、という考え方が既に市にはある。
善行の当該地も、ビオトープ計画に組み込んでも良いかもしれないが、今となっては後付け理由でしかない。そのうち、市は取得理由に付け加えてくるかもしれない?

というわけで、宅地開発される可能性が乏しい農地に対して
宅地としての正常価格
の鑑定結果を根拠に市は取得金額を決定した。にもかかわらず
「市に問題なし」という議員が過半数を占めているのが不思議でならない。

新聞記事によれば、与党が100条委設置に反対する理由は
「もはや理屈でなく感情論」
らしい。これは
100条委設置を提案している議員達の事が気に食わない
という意味なのだろうか。
ならば「私の不徳のいたすところ」だろう。
(続く)