クローズアップ現代のスクープ
インフルエンザに罹ってしまった。
もう回復しているが、お医者さんに
「軽快してからも二日間は自宅養生」
と指示されたので今日は議会があったのだがお休みした。議員になって初めての事だ。
そんな訳で、この3、4日間は普段は滅多に見ないテレビ漬けだった(熱があるときはマンガ以外の本は読めない)。国会の代表質問も久しぶりに見た。
で、今週はずっとNHKのクローズアップ現代を見ている。今晩は
「東大紛争秘録〜45年目の真実〜」
という内容だ。
45年目にして関係者の証言記録が日の目を見るという「スクープだ」とNHKは言うが、ならばもう少し踏み込んで欲しかったとも思う。
とはいえ、放送を見て私の疑問が晴れた。「良い番組だった」とNHKを讃えたいと思う。
私の疑問とは。
「なぜ東大紛争が『大事件』なのか?」
そして、
「東大当局側の『敗北』と一般に言われるが、それはなぜなのか?」
という事がもう一つよく分からなかったのだ。
東大紛争は、私が生まれた1969年の話なので当然リアルタイムでは知らないが、「激動の昭和」みたいな記録番組とかでは必ず大きく扱われる出来事で、親の話などと合わせて大まかなことは知っている。
で、この事件に対して、これまでの私の印象だと、
「大学当局に不満を持つ学生が構内を占拠し、対して当局側は学生の説得を諦め、学生を排除するために『大学当局側が』機動隊の出動を要請」
このことから、
「大学の自治を(あの東大が)大学自らが否定した」
「この頃から大学が反動的になっていった、、、」
みたいな総括というか、切り口の論調が多かったように思う。
そうした面があるのだろうが、もう一つピンとこなかった。
だが今日の放送を見て私の疑問は溶けた。
機動隊の突入も事件だろうが、それ以上に当時の大学執行部は
「入試の中止」
に衝撃を受けていた事が今日の放送で明らかにされた。
一部の暴徒化した学生を警察の実力行使で排除する事自体は映像としては衝撃的ではあるが、元気な大勢の学生に対して少数のお年を召した教授達が力ずくでかなうはずもないので、警察介入は仕方ないだろう。
これ自体は大学の自治が脅かされた事にはならないのだ。
そうではなくて、
「政治の圧力によって入試の実施を断念させられた」
事こそが大学の自治が侵された瞬間だったのだ。
「学問の自由」は日本国憲法で保障されている。
どのような研究をするか、どのような授業をするのか。これは大学当局が自らの学問的信念で決するべきで、政府は干渉してはならない、という事である。
入試についても、大学としては「当大学の研究や授業に相応しい学生を入学させる」という点で学問の自由の範囲だ。
その学問の自由を守るため「大学の自治」が認められている、という事だ。
入試、新入生をとることは大学運営の根幹である。
だから、大学側はなんとしても入試を実施したい。
しかし、学生が構内を占拠し続けていて、このままでは入試が実施できない。
早期に混乱を収拾するために、大学側は機動隊の要請を決断した。
だが、皮肉にも政府が入試の中止を勧告し、機動隊を政府に要請した弱みもあってか、東大側は入試の断念せざるを得なかった。
これで、疑問が溶けた。
東大紛争の本質とは?
それは、機動隊突入ではなくて(伏線にはなっているが)、
「『政府の圧力』による入試の中止」
にあったのだ。
では、「東大の敗北」とは?それは
「可愛い学生を敵に回す覚悟で、機動隊要請という強硬手段を使ってまで守ろうとした『学問の自由(大学の自治)、具体的には入試』が、官憲に頼った事を逆手にとられ政府の介入を許してしまい中止に追い込まれた」
という事だろう。
大学当局は、下(学生)にも上(政府)にも負けた、のだ。
これは、単純に当時の大学総長ら執行部側が下手を打った、という意味での敗北という気もするが。
ともあれ、これは確かにスクープだ。大変勉強になった。今日は見た甲斐があった。
で、冒頭の感想にもどる。
NHKは、今晩の放送で「政府による憲法違反」とは実は全く述べていない。
番組の総括というか結論は
「大学側は学生達の『学問とはなんぞや』という素朴だが真摯な問いかけに向き合わず、回答も持ち合わせていなかった、、、」
みたいな感じだった。
負けるのなら、せめて学生と大学側が一体となって政府に向かって行って負けるのならば救いもあるが、、みたいな雰囲気もあったかな。
そうした結論も不自然ではないが。
東大は日本の大学のトップであり象徴だ。
その東大をして、下からの突き上げ、上からの圧力で右往左往し、どちらからも浮き上がってしまう有様だ。それが当時の日本のトップの大学の限界だった、、、
まあ、天下の東大を腐して溜飲を下げる事は出来るかもしれないが、だからどうした、そんなものだろ?って話でしかない。
番組が本当に伝えたかったのはそうでは無いはずだ。
「時の政府は『学問の自由』を侵す憲法違反をした疑いがある!」
「それを45年目にして初めてクローズアップ現代取材班が明らかにした!」
せっかくのスクープなのだから、ここまで言わなければ。
当時の自民党筋の意見として
「大学が過激派養成の場になっとる」
みたいな見方があり、(見せしめのため?)入試中止を主張している、と番組で紹介された。伏線は張られていた。
ならば、この番組はハッキリと
「政府・自民党の圧力をかけ、大学が屈した」
「これは学問の自由を侵す憲法違反では??」
と言うべきだった。
意図的に避けたのだろうが、こう言わないと、視聴者は今日の放送の一体どこがスクープかなかなか分からないだろう。
まあ、経営陣が安倍色で固めれた中では、「クローズアップ現代」としてはギリギリの報道だったのかもしれない。
「行間を読む」
という。テレビも、特に圧力にさらされているNHKの報道特集も行間を読まなければならないのかな。